勉強してきました

堺市北区新金岡 永山歯科医院 院長の永山です

先週の日曜日に、大阪大学歯学部同窓会の学術講演会に出席して、以下のお話を勉強してきました。

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【講師】

・矢谷博文先生(大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座 クラウンブリッジ補綴学分野教授)

・木林博之先生(大阪大学大学院歯学研究科臨床教授 大阪大学歯学部附属歯科技工士学校非常勤講師)

・黒住琢磨先生(大阪市開業)

・大谷恭史先生(ワシントン大学招聘教授 米国補綴専門医 大阪大学大学院歯学研究科臨床准教授 北海道大学歯学部非常勤講師)

・高岡亮太先生(大阪大学歯学部附属病院医員)

 

【会場】 大阪大学歯学部記念会館

 

【講演内容】

支台築造、支台歯形成や印象採得などの各臨床ステップは補綴歯科治療には欠かせない基本的な手技であり、それらは歯科医療の長い 歴史の中で様々な研究や臨床的経験の結果、体系化されてきた。科学の発展により次々と新しい材料や機器が開発され、新技術が産まれつつあるが、それらは補綴歯科治療の根本を変えるような技術革新に繋がっている訳ではない。これまで先人たちが体系化してきた補綴歯科治療における基本的な知識や手技を無視して、最新技術頼りの補綴歯科治療を推し進めることで予期せぬ結果に繋がってしまうこともありうる。もう一度先人たちが築き上げてきた基本に立ち返り、十分に理解することで、最新の材料や技術を最大限に活用できるようになるのではないだろうか。そのためには、古典的な文献から最新の文献まで幅広く触れ、過去を踏まえた上で現在を理解することが非常に重要である。

本講演では、補綴歯科治療を成功に導くためにどのようにしてエビデンスに基づいた臨床的決断を下すのか、幅広い文献的知識及び考察に基づき、 失敗症例における根本的な原因を追求しながら解説していきたい。

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何のこっちゃ?、難しいことを勉強してきはってんなぁ… というのが読まれている方の正直な感想ではないでしょうか?

少しだけ解説しますと、まず「歯冠補綴(しかんほてつ)」とは、虫歯や怪我で失った歯の一部を、いわゆる被せ物(クラウンやブリッジ)で修理することです。

日本補綴歯科学会HP 補綴歯科ってなに? 参照

そして、「Evidence-Based(エビデンスベースド)」 とは、科学的根拠に基づいた(治療)、という意味です。

エビデンス – Wikipedia 参照

私たちは何事をするにしても長年の経験や勘に頼ってしまいがちですが、医学においてはそうではなくて、論文を調べてできるだけ確実で信頼度の高い方法を選びましょう、という考え方です。

この「エビデンス」については、僕が大学で学んだ教室(歯科保存学)のモットーだったので自分にとっては馴染みが深いのですが、今になって振り返ると、自分の専門分野(虫歯と歯周病)における臨床、研究、教育の全てによく浸透していたように思います。

日本歯科保存学会HP 歯科保存とは 参照

 

一方で、歯科補綴学(歯冠補綴、入れ歯やインプラントなどの欠損補綴も含まれる)においては、歯や口という体の中でもかなり複雑な部分における “ものづくり” を扱うために技術的な要素が大きく、上の講演内容にも記載されているような問題が起こりやすいため、開業医の立場でエビデンスを活かした診療を実践するのがなかなか難しいところがありました。

今回の講演内容は大学の専門の教室に所属する様々な立場の先生の話をまとめて聞くことができるので、普段から感じているモヤモヤを解消することができる良い機会かなと思い、久しぶりに参加しました。

結果的には、歯冠補綴のエビデンスを学ぶことで、普段の診療の精度を上げるヒントをたくさん見つけることができましたし、自分の知識と技術と経験の再確認もできたので、とても良い勉強になりました。

また、同級生の先生の近況や、以前に臨床実習で指導した先生がもう10年目になり、保存を大切にしながら補綴の臨床を頑張っている成長した姿を知ることができて、とても良い刺激をもらいました。

このような学びを活かして患者さんに還元できるように、明日からもまた頑張ろうと思いました!

 

 

【追記】

先日、大阪労災病院に行ったときにモニターに写し出されていた患者さん向けのスライドを見ていると、「がんの治療法」についてわかりやすく説明されていました。

その中に出てきていたのですが、がんの三大治療である外科治療(手術)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療において、現在では部位や進行度に応じて「標準治療」という科学的根拠に基づいたガイドラインに則って術式や薬剤の種類と投与量を決める治療法がスタンダードになっています。

標準治療 – 国立がん研究センター 参照

治療法を考える – 国立がん研究センター 参照

標準治療って何? – 中外製薬 参照

この科学的根拠=エビデンスであり、「標準治療」は研究成果(基礎研究と臨床試験)や過去の臨床成績(統計学)により検証されたそのときの最善・最良の治療法とされています。

そして、日本は国民皆保険制度であり、「標準治療」については医療費が高額になっても限度額適用認定が使えるため、患者さんの自己負担は限度額内で済むようになっています。

高額療養費 – 全国健康保険協会 協会けんぽ 参照

 

一方で、最先端の治療(先進医療)についてはまだ検証が十分ではないので治験という形で行われていて、治療費は保険適用外となり高額になる傾向があります。

具体的には、外科治療においてはロボット手術、化学療法においては遺伝子検査(診断)と分子標的治療薬(最新の抗がん剤)、放射線治療においては陽子線・重粒子線治療、などが開発・普及されてきていて、従来の治療法では治すことができなかったような状態でもより良い状態に持ち込んだり、結果的に寿命を伸ばしたりすることも可能になってきています。

がんの分子標的薬 – キャンサーネットジャパン 参照

そして、新しい科学的根拠(エビデンス)を確立してより優れた治療法や新薬を開発するために、多くの関係者(医師や研究者)が日夜努力をしています。

 

なので、エビデンスを活用(応用)するためには、過去から現在、そして未来までを俯瞰できる視点を持つ必要があるので、休日にもかかわらずわざわざ勉強に行ってきたという訳です(講師の先生方もお忙しい中で休日に講演会を開催して下さっている訳で、本当に頭が下がりますm(__)m)。

また、講義の中でもたくさんの良い治療法やすばらしい症例が出てきていましたが、歯科の臨床においては技術的な要素が大きいこともあり、最善・最良の治療法については保険外治療になることが多い(一方で、検証が不十分なこともあるので、その部分の注意は必要です)ので、医療が進んできて情報化社会になってきた今だからこそ、エビデンスを患者さんにわかりやすく伝えながら、保険診療(=標準治療)と保険外治療(=先進医療)についての説明を十分にして、納得された上で治療法を選んでもらうようにしていかないといけないなぁ、とも感じました。(逆に言うと、患者さんが先生におまかせではなくて自分自身で考えて選ばなければならない時代になってきているということでもあります)

実際のところは、以前に書いた「専門医」のときの話と同様で難しい部分がたくさんあるのですが、自分のできる範囲で結果を出していけるように、これまでに身につけてきた臨床と研究の知識と技術と経験を活かして努力していこうと思いました!

 

 

【追追記】

さらに先日、用事があって大学に行ったのですが、ついでに専門書を大人買いしたり(爆)、教授の先生と話をしたり、読みたかった論文を検索して入手したりして、自主的に「エビデンス」の強化に励んできました。

大学に勤務しているときにはどれも当り前のことで何とも思わなかったですが、開業医になってみて改めて恵まれた良い環境で勉強することができていたんだなぁ、と思いました。

このように「エビデンス」と一括りに言ってはいますが、いろんな種類があることがおわかりになられましたでしょうか?

突き詰めていくといろんなことが見えてくるので、一生勉強に終わりはありません。

これからも積極的に自己研鑽に取り組んで、より良い医療が提供できるように精進していきます!